家族信託制度を理解する

今月は税務の話ではありませんが『家族信託』について解説致します。家族信託制度は賃貸経営オーナーの重要テーマである『財産管理と承継対策』になりえますので、その内容をご理解頂きたいと思います。

◎財産を凍結させないために

アパートの所有者Aは長男Bにアパートの管理と運営をさせ、家賃はAの所得としたいと希望しています。このことは親子ですから長男Bが了解すれば可能ですが、さらにその後にAが認知症等で意思表示が出来なくなった時に、アパートの管理・運営で起こる問題の全てを長男Bの判断で行ったり、不測の事態でAに費用が必要なときにアパートを売却してAの資金に変えるという行為は、長男Bの独断では出来ません。
長男Bが後見人となる道はありますが、家庭裁判所の監督下となるので『新たな借金や投資、不動産購入などは基本的にすべてNGで、死亡するまで財産を凍結しておく』状態となってしまいます。
このような時に『家族信託』が活用できます。Aが委託者兼受益者となり、長男Bが受託者となって信託契約を締結します。このときアパートの所有者は名義と受益権の2つに分かれ、名義は長男に渡り、受益権がAに生じます。
登記権利者は長男Bですが、移ったのは名義だけなので贈与にならず税金も発生しません。こうすることでAが意思表示できなくなっても、委託された長男Bの判断で運営管理してAに家賃収入をもたらしAの為に売却することも可能となります。
長男Bが「どこまで出来るか」は信託契約の内容によります。これが『家族信託』による凍結させない財産管理の一例です。

◎財産で揉めさせないために

次のポイントは、財産で相続人を「揉めさせない」ことです。Aにはもう一人次男Cがいますが折り合いが悪く音信不通の状態です。Aの財産は自宅とアパートだけなので、すべて長男Bに譲りたいと思っています。その時に、現行の法律の下でAが取れる手段は、まず長男Bへの生前贈与ですが、高額の税金が課せられます。しかも、特別受益として相続財産に「持ち戻し」されてしまいます。もう一つは遺言によって「遺贈する」ことですが、次男Cには「遺贈分減殺請求」という強力な権利があるので、「すべてを長男Bに」というAの思惑通りにはいきません。では家族信託を利用したときはどうでしょうか。まず、自宅とアパートをAの所有から切り離して長男Bに委託してAが受益者となります。Aの持っていた所有権は名義と受益権の2つに分かれ、名義は長男Bに渡り、受益権がAに生じます。Aが亡くなったときは、あらかじめ二次受益者を妻と決めておけば、Aの受益権の消滅と同時に妻に受益権が生じます。これを遺言代用信託と呼んでいて、改正された信託法によって生まれた新しい仕組みのひとつです。このとき妻に相続税が発生したとしても「配偶者の税額軽減」によって無税となるでしょう。そしてこの先が『家族信託』の特徴なのですが、三次受益者として長男Bを指定しておくことが可能になります。これらをAの意思で行うことが出来るのです。民法の遺言では「妻に譲る」までしかAの意思を反映させることは出来ませんから大きな違いです。ただし、問題となる次男C「遺贈分減殺請求」の権利を家族信託が封じ込められるかどうかは、専門家の意見が分かれていますので完全ではありません。平成19年の新しい法律のため、まだ判例が積みあがっていません。いずれにしても状況に応じて活用できる制度ではないでしょうか。